KEYSI(ケイシ)は1980年、スペイン人のフスト・ディエゲスによって開発された護身術です。正式名称を“KEYSI Fighting Method by Justo Dieguez(ケイシ・ファイティング・メソッド・バイ・フスト・ディエゲス)”といい、KEYSIまたはKFMと略されています。

映画『バットマン・ビギンズ』をはじめ、『ダークナイト』や『アウトロー』の主人公が使う格闘術として使用されているため、その独特な動きをご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。

KEYSIはリングや道場での試合ではなく、【1対1ではなく対複数人】【道場ではなくストリートでの争い】を基本想定としています。この「ストリート」は単に路上だけを意味せず、例えば電車の中、エレベーターの中といった日常生活におけるあらゆる空間を意味しています。

両手で頭を抱えるフォームが特徴的で、これは「頭部の保護」と「周囲の観察」を重要視した結果生まれたスタイルです。

ストリートには無数の要素があります。周囲に何があるのか、エリアの広さ、相手の特徴、人数、自分の服装や持ち物etc…自分が置かれた状況の中でベストな選択肢を選ぶためには「冷静な状況把握」と「状況を活用するための思考」が欠かせない。というのがKEYSIの考え方です。

また、これが最も大切なことですが、多くの護身術がそうであるように、KEYSIには「これさえ覚えれば絶対に身を守れるようになる」という魔法はありません。

KEYSIはまず「人間の弱さ」と向き合うことから始まります。

映画のヒーローのように戦うことがいかに困難か。
人はどれほど容易く冷静さを失ってしまうのか。
護身術を習っているという過信が招く新たな危険。

これらの事実と常に向き合いながら、日常の様々な状況に対応できる柔軟な心・技・体・考を鍛え、自立した“個”の強さの獲得を目指しています。

ケイシの特徴

ケイシは人体構造(ひねりや関節の方向)を理解した上で構成される動作、急所を守りながら戦う方法が特徴です。喧嘩の99%は最終的に床で行われるという統計データの元、立ち技だけではなく、立ち膝、座位、倒れても戦えるように設計されています。

関節技はもちろん、人体の構造を利用したテイクダウン(床に相手を倒す)寝技まであります。また、多人数戦を想定した考え方、トレーニングがあります。

フスト・ディエゲス師父は相手の体や壁や床を使い多人数を制圧します。

また、武道としての哲学もあり4つの成長ステップを掲げています。
『身体』『精神』『感情』『魂』。身体を鍛えることで精神が成長し、精神が成長することで、身体と感情が結びつき、最終的に人間としての魂が成長するという考え方です。
フスト・ディエゲス師父は最初に触れた武道が空手だったので、日本人にも相通じる考え方を持っています。

KEYSIの意味 - 自分を信じる心 –

KEYSIはスペイン語では“Que y si”と表記し、それぞれ発音はQue(ケ)、Y(イ)、Si(シ)となります。
英訳すると、

Que = what
y = and
si = yes

これを世界中の人が読みやすいよう、英語風に表記をアレンジしたのが“KEYSI”です。しかし、英語だと“KEY/SI”と区切ることができるため、英語圏では「キーシ」と発音されがちなようです(KEYは鍵の“キー”の発音になるため)。そのせいか、映画『バットマン・ビギンズ』のメイキング映像では「キーシ・ファイティング・メソッド」と字幕表記されています。

これが理由で日本では多くの方が「キーシ・ファイティング・メソッド」と認識されていますが、正確な発音は「ケイシ・ファイティング・メソッド」になります。

KEYSIは“Que si”というスペイン語のフレーズが元になっています。これは肯定や意志を強調した言葉で、日本語に訳すとしたら「絶対そう」「必ずやってみせる」といったところでしょうか。

KEYSIの創始者であるフスト・ディエゲスは、幼少の頃、母親によく“Que Si?(できますか?)”と問い掛けられたそうです。これは技術的にできるできないを尋ねているのではなく、「あなたならやり遂げられるよね?」という信頼がこもった問い掛けであり、フストはこれに対し“Que si!(できる!)”と返すのがお決まりだったそうです。その際、まだ幼いフストは「ケシ」ではなく「ケイシ」と発音するのが癖だったため、周囲から「ケイシ」と呼ばれていたと言います。

フストは母親とのこのやり取りのおかげで「自然と自分を信じることができるようになった」と話してくれました。フストは「自分を信じる強い心を育てて欲しい」という想いを込めて、自身が開発した護身術にこの言葉を用いたそうです。

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